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50歳になった「カウンターカルチャーのカタログ」

2018年10月13日に「Whole Earth Catalog」50周年記念イベントというのがサンフランシスコで開かれたそうだ。そのことを10月14日に知った。そうか、50周年だったのか、そういえばそうだ。

引用:50周年を迎えたWhole Earth Catalog

1968年に米国で生まれたこの雑誌の日本での知名度は、2005年のスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式でのスピーチ(Stay Hungry, Stay Foolish)のお陰で、ずいぶん上がった感がある。1966年生まれの僕は世代的には「Whole Earth Catalog」の世代ではまったくない。創刊当時に20代前半の若者たちに強いインパクトを与えたのだと仮定するなら、僕は彼らより20歳ほど下の世代ということになる。

初めて本物の「Whole Earth Catalog」を見たのは、たしか1990年代の後半で、「The Millennium Whole Earth Catalog」という、ハワード・ラインゴールドが編集長を勤めた復刊号だった。当時僕は「HotWired Japan」という、当時の「米WIRED」誌の《デジタル版の日本版》の編集部にいて、編集長だった江坂健さんが参考書籍として持ってきていたものを読ませてもらったのだと記憶している。
(そう言えば当時、サウサリートのハワード・ラインゴールドの家に取材に行ったんだった。バカすぎる。もっとちゃんと読んでおくべきだった。。)

My conversation with Chip Conley onstage at #WholeEarth50th https://t.co/O3HxI662Ze

— (((Howard Rheingold))) (@hrheingold) 2018年10月14日

引用:Twitter ハワード・ラインゴール

いま思い出してみると、当時これがどういう意味のある雑誌なのか、いまひとつよくわかってなかった気がする。ただ、自分が中学生の時に大いに影響を受けた平凡出版の「POPEYE」の祖先にあたる雑誌だと言われていたり、WIRED誌を創刊したケビン・ケリーがもとは「Whole Earth Catalog」の編集者だったり、「Whole Earth Catalog」の発行人だったスチュワート・ブランドが1980年代になると、パソコン通信コミュニティの「Whole Earth ‘Lectronic Link(WELL)」をはじめたりと、当時の自分が興味のあったことがらと、なぜかなんとなく繋がっていて、へえーという感じだった。
米国のジャーナリスト、スティーブン・レヴィの名作「ハッカーズ」はハッカー文化とカウンターカルチャーの共通点や同時代性を明らかにしたが、ネットと「Whole Earth Catalog」もたぶん「近い」存在だなと思っていた。

それから少しづつ、編集とWebに関連した仕事をしていく中で、くりかえし「Whole Earth Catalog」の足跡を見る機会が重なっていき、おぼろげに、世の中におけるこの出版物の存在の輪郭が見えてきたという感じだった。

「Whole Earth Catalog」には「Access to Tools」というサブタイトルが付いている。これがまさにキーワードで、要は、(若く、持たざる)人々が世界と対等に向き合うための、さまざまなツール(道具や知識)を紹介するというのがこの雑誌の趣旨と言えるだろう。国家や大規模な産業資本によって専有されてきた「手段」を人々に手渡す、「手段の民主化」というようなニュアンスがあり、そこに当時のカウンターカルチャーの人々はしびれたのかもしれない。

スティーブ・ジョブズは、例の演説で「Whole Earth Catalog」のことを端的に「Googleのペーパーバック版みたいなもの」と喩えたが、これはとても分かりやすく、的を射た表現だった。インターネットは「Whole Earth Catalog」が夢見た「手段の民主化」を、当時は想像もできなかった規模で実現してしまった世界と言える。われわれは、すさまじいボリュームの、ありとあらゆる種類の手段にアクセスできるようになった。

2014年に発行された日本の雑誌「Spectator Vol.30」ホール・アース・カタログ特集(後編)に掲載されている関係者へのインタビューで、ケビン・ケリーもスチュワート・ブランドも、「カウンターカルチャーは既に勝利した、大きく世界を変えた」という趣旨のことを話している。この発言が直接、それを意味しているわけではないだろうが、彼らからすると、「Whole Earth Catalog」がインターネットになったという感覚もあるのかも知れない。

手段はもう、われわれの手のひらの中にある。

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